2010-06-08

わたしの人生のSFがらみ。

      
      
どうも最近、読みたいと思えるSFが見つからないわ。
というわたしのつぶやきに、すかさず隣にいたパートナーが
みんな亡くなってるからじゃない、ですと。
      
たしかになあ。プログレ界以上に高齢化が進むSF界。
ここ数年SFマガジンなんて2回に1回は追悼特集やってんじゃないか
ってくらいの印象だし(あくまでも印象ね)。
      
たとえ存命でも、むかし夢中で読んだ作家たちは
今じゃ一線を退いた雰囲気?
わたしが把握してないだけかもしれませんが。
      
いよいよ遅ればせながら、ここ数年流行ってる
“ニュー・スペースオペラ”でも読んでみましょうか?
でもあれ、どれもこれもなんであんなに長いんでしょうね〜。
レナルズなんかは1000ページ以上ですか?
歳とともにめっきり読書量(時間)が落ちてるこっちの問題でもあるんですが
手に取る気が一気に萎える物量。
キリッと引き締まって切れ味鋭いアイデア・ストーリー、
そんなSFが読みたいものです。
      
てなわけで、テッド・チャンの「あなたの人生の物語」を(何度目かの)再読。
いやあ、これはほんとにすばらしいなあ。













                         
この人、本職はテクニカル・ライターのパートタイム作家。
そのせいもあって非常に寡作。
1990年のデビュー以来、現在まで10余の短編しか発表していません
(長編は0!)。
にもかかわらずその評価はとても高く、グレッグ・イーガンと並んで
“現代最高のSF作家”と称されるほど。
最高の作家がパートタイマーってのもどうなのよって感じですが、
読めば納得。
「あなたの人生の物語」は、そんな彼の作品が日本語で読める現在唯一の本
(SFマガジンのバックナンバーは除く)にして
SFがたどりついた一つの到達点。珠玉の短編集であります。
      
まず巻頭を飾るのは「バビロンの塔」。
われわれの知る科学法則とはまったく異なる、
神話的・宗教的法則によって支配された異世界の物語。
それでもありがちなファンタジーに陥らないのは、従う法則は違っても
あくまで論理的思考にのっとって物語が進行していくから。
宗教の怖いところは信仰心と引き替えに多くの人が思考停止してしまうところ。
神がいようがいまいが実は関係ないのです。信仰心もけっこう。
人間、肝心なのは思考することをやめないその姿勢だということを教えてくれます。
      
「理解」。
ある化学療法によって知能をどんどん増強させる男のはなしを
一人称・現在形で綴っていきます。
つまり「アルジャーノン進化型」という趣向。
当然といわれればそのとおりなのですが、脳の極端な発達に伴って
身体能力はおろか感情までもが進化・変容していく様は
うすら恐ろしさを覚えずにはいられません。
しかし変化はとどまるところを知らず…。
究極にまで知能を高めた人間の末路は?
      
などなど、どの短編もすべてワクワクするような傑作揃い。
それでもやはり表題作「あなたの人生の物語」の味わいは別格でしょう。
      
よく、「SFは“人間”が描けていない」という批判をよく聞きます。
これに対して「SFは“人類”を描く」というSF側からの反論も存在したり
(まあ、噛み合ってないけど)。
それだけSFとそれ以外の文学とは相容れないものとして語られてきた感があります。
いわゆるジャンル論争は絶えないですしね。
           
しかし、この「あなたの人生の物語」こそ
そんな文学的相克を埋める作品のひとつではないかと、
わたしなんかは思うのであります。
SF的アイデアと文学的叙情が分かちがたく結びつき
他では決して味わうことのできない不思議な、でも静かな感動を呼ぶ…
しかもそれが鮮やかに短編で活写された驚き。
…これ以上は語りますまい。
あとはもう、実際に読んでいただくしかありません。
      
とまあ、長々と語ってきましたが
こんなことはすべて、世のSF読みにとっては「なにを今さら」ってはなし。
この文はSFをあまり読まない人に向けて書いたつもり。
スター・ウォーズみたいなのばかりがSFじゃありませんよ。
あるいはクラークやディックばかりでも。

巨匠も確かにいいんですが、
SFに限っていえば「過去の名作より今の凡作」。
“未来の文学”を標榜する以上、“未来”に一番近い場所は“今”ですから。
(余談になるけど、分水嶺はソ連邦崩壊あたりでしょうかね。
メタファーの対象の転換とコンピューターの一般への浸透がでかい)
       
もちろん、それが「今の傑作」ならいうことなしってわけで。
         
う〜ん、“1000ページ”はどっちなんだ?
あのボリュームで凡作はさすがにしんどいぞ〜。
        
          
           
            

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