2010-05-17

渋谷からの哀悼。─「Masques」「X-RAITED!!」Brand X─

      
      
またしても訃報です。
      
ケイト・ブッシュやポール・マッカートニー&ウイングス、
マイク・オールドフィールドなどなど、さまざまなミュージシャンの
アルバムに参加したことで知られるパーカッショニスト、
モーリス・パートが4月27日に亡くなったそうです。63歳でした。
      
70〜80年代、ロック系アルバムでパーカッショニストといえば
ほとんどこの人の名前だったんじゃないか、ってくらい活躍していましたね。
ソロや自身のバンド(サントレッダー)での活動も見逃せませんが
このブログ的には何といってもブランドXを語らないわけにはいきません。
      
以前、わが心の師パーシー・ジョーンズについて少し触れたことがありますが、
いうまでもなくその彼が在籍したバンドがブランドX。
そこに2nd.アルバムから参加し、以後ずっとパーカッショニストとして
バンドを支えたのがモーリス・パートでした。
      
特にアルバム「マスクス」発表前後、
リズムの中心だったフィル・コリンズ不在の窮状を救ったのは
このモーリス・パートだといっても過言ではないでしょう。
      
この「マスクス」においてリズム面の主導権を執っているのは
間違いなくモーリス・パートの多彩なパーカッションです。
コリンズに代わり参加したチャック・バーギ(後にレインボーに加入して
知られることになるドラマーですが、最近ではビリー・ジョエル・バンドの
メンバーとして来日。びっくりしましたねー)はシンプルなドラミングに徹し、
パートが自在に動き回るスペースをお膳立て。
縦横無尽のパーカッションとキープに徹するドラムにより、
このバンドの売りでもあるジョーンズとのスリリングなリズム・アレンジと
かつてなかった(気持ちのいい)ノリのよさを両立しました。
さらにパートはコンポーザーとしてもすばらしい楽曲を提供。
演奏作曲両面におよぶ彼の活躍によって、
ブランドX史上まとまりは随一ではないでしょうか。
メンバー一丸強靱なアンサンブルを叩き出す
完成度の高い傑作アルバムに仕上がっています。
      
↓ LPはその昔、貸した友人もろとも行方不明に(元気ですかー?)。
 数年前に出た紙ジャケは中身が同じなので未購入。
 乞う!リマスター!













                          
そして、その「マスクス」発表時(1978年)
ニューヨーク・ボトムラインでのライブを収録したブートレッグ「X-RAITED!!」。
「マスクス」からの曲を中心にしながらもこちらはうって変わって“破壊的な”傑作。
こちらもモーリス・パートの魅力をたっぷり堪能できますが、
それだけにとどまらず、わたし的には“これぞブランドXの最高傑作!”と
密かに思っている1枚なのです。
ドラムはマイク・クラーク、さらにギターはマイク・ミラーに変わっていて
メンバー全員、手数の鬼となり暴走に次ぐ暴走!
すべての曲でアドリブ合戦を展開!スタジオアルバムにおける演奏時間の
倍くらいの長さになっています(1曲目と5曲目はほぼ20分)!
全編70分以上、常に飽和状態の音数、アンサンブルは崩壊寸前。怒濤の疾走感。
そしてここでもイニシアチブを握っているのはモーリス・パートです。
完全に“イっちゃってる”ソロはあのジェイミー・ミューアを彷彿。
アルバムよりはるかに手数が多くイマジネーション豊かな
パーカッション・プレイで他のメンバーを煽る煽る。
ピーター・ロビンソンのキーボードがさまざまな音色で空間を駆け巡る中、
パーカッションに対抗するパーシー・ジョーンズの
調性無視の変態ベースはいつも以上のあばれっぷり。
あのヘッドハンターズのマイク・クラークも、パートにせき立てられて
タイトな手数重視の高速プレイで突っ走ります。
      
ブートにしては音質もまずまず。
高音がバリバリ割れますが、ギターの音などむしろ迫力が増して結果オーライかも。
このマイク・ミラーという人物、ジャズ・フュージョン系の人らしく
押し引きを心得たプレイを聴かせるものの(ただ一人冷静なプレイ?)
正直、グッドソール(によるロックからのアプローチ)ならどうだったろう、
と思わせる瞬間があるのは確か。
このへんが唯一残念なところでしょうか。
      
ただ、生粋のジャズ・フュージョン系プレイヤーが2人もいる中、
その手のいわゆる“フュージョン・サウンド”に流れていないのは、やはり
即興をしてもジャズに根ざさないパート、ジョーンズの
資質によるところが大きいでしょう(現代音楽家としても活動するパートと
中近東趣味を押し立てるジョーンズ)。
ジャズとロック、その他雑多な音楽要素のぶつかり合い、
この混沌こそジャズ・ロックの真骨頂!
危ういバランス(アンバランス)、爆発力、疾走感、すばらしすぎます。
ブランドXはコリンズがいなくてもすごいのだ!
      
↓ なんというお下品なジャケットとタイトル。
 でもジャケ写をむりくり切り貼りした他のブートに比べたら
 まだ“ひねり”が感じられる?













                         
その昔、ブランドXというと必ず
“米国ジャズ・フュージョンに対する英国からの回答”なんていう
煽り文句がくっついてきて、よくリターン・トゥ・フォーエバーなんかが
引き合いに出されていましたが、どうもピンと来ませんね。
(わたしの場合は順序が逆だったので、その後RTFを聴いたときに
見事に期待がはずれてしまったわけです。今なら、求めるものが違うと
わかりますが…。音楽ジャーナリズムも罪作りです)。
要はそんな型どおりの枠で捉えられないごった煮、
それがブランドXだったのです。
      
少々ジャズ方向に傾いた公式ライブ盤「ライブストック」は
今ひとつ物足りない…というあなた、そして
「マスクス」はカッコイイけどちょっと予定調和だな…と感じるあなた、
「X-RAITED!!」はそういうかたにぜひ聴いてほしい音源です。
といってもブートなんであまり大きな声ではいえませんね。
というか、今でも入手できるのだろうか…?
      
ノヴァがジャズ・ロックの世界を広げてくれたバンドだとしたら
ブランドXはわたしのジャズ・ロック遍歴の原点となったバンド。
じつをいうと、あまりにも愛しすぎているので
どのようにまとめようかと悩みつつブログに上げるのを避けていました…
それがこんな形でアップすることになるとは。
      
このバンドについてはまだまだ語りたいことがたくさんあります。
しかしそれはまた、改めて。
      
今はただ、モーリス・パートの生み出した音に耳を傾け、
冥福を祈りましょう。
      
      
      
      

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