2010-03-08

アートエンターテイメント!血球美術館。──「Scratch My Back」Peter Gabriel ──

      
      
ピーター・ガブリエルの「スクラッチ・マイ・バック」
発売から半月以上遅れてよーやく入手でございます。
HMV通販で一緒にオーダーした他のCDが入荷待ちだったので
ここまで待たされてしまった。
まあ彼の場合、この二十数年というもの7年とか8年とか
ふつーに待たされるんで、こんなもん屁でもないですがね。
            
もっともインターバルの間にもマメに細かい仕事はやってるようだけど。
映画音楽とか(「WALL・E」のエンディング・テーマは
記憶に新しいところ)。というか、カバー集となっているこのアルバムも
どちらかというと“企画モノ”ってことになるのかな?
なんでもいろんなミュージシャンと互いの曲を交換するんだそうで
次は各ミュージシャンによる彼の曲のカバーが発表されるらしい。
一部情報によるとそちらはiTunes Storeで順次配信なんていう話もあります。
本作もguardian.co.ukで全曲試聴可、その中の一曲はメアド登録すれば
フリーダウンロードできるのだとか。
いやあ時代の趨勢とはいえ、ピーガブもいよいよネット配信ですか…
      
なんたってこちとらiPodなんて持っていない昭和の人間。
「耳栓みたいなもんでちまちま聴いてられるかい」ってなもんです。
そしてもう一つ。
LPで育った人間にとって、時代がCDに変わり、
それがSACDになろうがDVD-Audioになろうが(いや今はまだCDでいいです〈笑〉)
音楽にはパッケージ、つまり何か目に見える“カタチ”が欲しい。
ジャケットを彩るアートは、その音楽をより楽しむための
とても大切な要素なんですね。
ジャケットが美しいとさらに音楽が心に響く。
音楽が好きならイマイチなジャケットもなんだか愛おしく思えてくる…
(ロジャー・ディーンの絵のない「こわれもの」、
ヒプノシスの関わっていない「狂気」が想像できますか?)
かくもジャケットと音楽は切っても切れないモノ。
ジャケット・アートのない音楽なんて
クリープを入れないコーヒーなのであります(すみません昭和なもので)。
      
それはもちろん、ミュージシャン側にとっても
音楽と同様ジャケット・アートが重要な表現の場である
ということでもあります。
なかでもピーター・ガブリエルのアートに対するこだわりは、
わたしの知る限りロック界随一(きっぱり)。
      
しかも彼のアート志向はジャケットだけにとどまらず、
ライブの演出や視覚効果、ミュージック・ビデオなどなど、
さまざまな表現におよびます。
常にいろいろな表現媒体に目を配り、チャレンジしながら
その偉才ぶりを発揮してきました。
      
GENESIS時代やソロ初期のころは、ライブやジャケットにおいて
うかがい知れる程度でしたが(すでにライブにおけるコスプレや
ヒプノシスとのコラボはかなり変態だったけど)、80年代を迎え
ミュージック・ビデオ全盛の時代になると、ついに彼のアート志向が爆発。
代表的な「スレッジ・ハンマー」(アルバム「So」収録)をはじめ
異常にテンションの高い傑作ミュージック・ビデオを発表し続けます。
      
数ある中で特にわたしが好きなのは、少し時代が下った92年に
アルバム「Us」からカットされた「ディギング・イン・ザ・ダート」。
たった5分半のあいだに次から次へとあふれ出す
イメージの奔流に圧倒されます。
その独自の世界観と尋常じゃない凝りようは、もはや
他の追随を許さない(というか追随する気もなくす?)孤高の領域に。
            
さらに、90年代以降はいわゆるファイン・アートの領域にも踏みだし、
さまざまな現代芸術家とコラボレート。
アルバム「Us」や「Up」のブックレットはさしずめアート・ブックの趣。
94年、97年にはCD-ROMによるマルチメディア作品を発表、そこでも
めくるめく独自の世界を展開しました。
      
もちろんそれらはミュージック・ビデオのディレクターたちの
功績でもあり、アーティストたちの創造性の賜でもあります。
たしかに、常に才気あふれたクリエイターたちと組んで仕事をしている。
しかし毎度巨匠にお任せというならことは簡単ですが、
ピーター・ガブリエルの場合、若い才能とのコラボレーションが多い。
つまり、自身によるコンセプトを具現化するために
優れたクリエイターを発掘する能力、チョイスするセンス、アンテナにこそ
他の追随を許さない彼のすごみがあると思うのです。
      
「ウォレスとグルミット」のニック・パーク、
「au」のケイタイにもなっちゃった草間弥生、
アンディー・ゴールズワース、スーザン・ダージェス………
わたしの場合はみんなピーター・ガブリエルから教わりました。
日本で本格的に紹介されるよりもずーっと早く。
      
      
《↓写真時計回りで「EXPLORA1」、「EVE」(マルチメディア作品)、
草間弥生画集、スーザン・ダージェス写真集。
“OS:漢字Talk7.1以上”ってのが泣けます》












                          
じゃあ、そのすごみってどこから来るの?といえば、
結局は純粋にアートが好き!ってこと以外にないでしょう。
常にアンテナ張ってるっていうのはそういうことだし、
自らモチーフになったり時にはキャンバスになったりして
作品世界の中に登場してしまう様は本当に楽しそうだ。
      
そういうピーター・ガブリエルだからこそ、音楽配信サービスに対して
どういう考えを持っているのかとても気になってしまうのです。
ビジュアル・イメージは不要と切り捨ててしまうのか、
それとも他になにか別の媒体で表現していくのか…
アートに対するのと同じくらい新しいテクノロジーにも敏感な
彼のこと(先のマルチメディア作品もそんな嗜好の表れですね)、
今後スタンダードとなっていくであろう音楽配信へ向かうのも
仕方がないことなのでしょうか?
しかし“根っからアート好きのピーター・ガブリエル”には
そのさらに先にある、まだ見ぬ表現を夢見てしまう。
わたしにとって彼は、そんな期待を抱かせる
ただ一人のミュージシャンなのであります。
      
      
あ、そうそう、「スクラッチ・マイ・バック」の印象もちょっと。
とりあえず一聴した感じは… むむー。カバーに聴こえない(笑)。
みごとに全篇ピーガブ・ワールドだわ。しかも地味な時の。
デビッド・ボウイの「ヒーローズ」とか
もうちょっと派手にしようとすればできるだろうだけど
もはや売ってやろうとか下世話なことは思わんのでしょうな。













                          
ジャケットはこれまた思わせぶり。
タイトルの由来は、Scratch My Back and I'll Scratch Yours
(わたしの背中を掻いてくれたら君の背中も掻いてあげるよ)という
成句だそうですが、これは赤血球が背中を掻きあっているの図?
タイトルなど文字要素が全く入っていないのはいつも通り。
      
…なのですが、わたしが買ったのは英盤なので
左下に“Special Edition”のシール…
せっかくのシンプルなデザインが(涙)。
せめて、まっすぐ貼ってくれないかなぁ…
日本人はこういうの気になるんだよ〜!
      
      
      
      

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