2010-08-03

星を往くもの。

      
       
またひとり、好きなSF作家が星々の世界へ旅立ってしまいました。
ジェームス・パトリック・ホーガン。
7月12日、享年69歳でした。
      
前回のブログでプログレ・オールタイム・ベストの話をしましたが、
この作家のデビュー作「星を継ぐもの」は、
わたしのSFオールタイム・ベストかも。
出会ったのは大学生の頃。
眠るのも忘れ(ついでに講義も!)一気読みしたのを憶えています。
ことこの本に関しては、以前紹介したテッド・チャンみたいに
「文学的相克が…」とかなんとかいう面倒な言葉は一切不要。
とにかく面白い!の一言!
       
月面で“5万年前に死んだ宇宙服を着ている人類の死体”が発見される。
そんな摩訶不思議な事件を発端として
全篇、謎に次ぐ謎、推理に次ぐ推理。
そして最後にたどり着く、人類、いやいや太陽系の成り立ちをも巻き込む
驚天動地の結論、さらにだめ押しの一手。
まさにカタルシスの塊みたいな小説です。
      
あまりにも面白いので、ほとんどSFを読まない人に
きっかけになればと薦めたりしたこともあるんですが
どうもいい反応が返ってきたためしがない。
これこそこの本における最大の謎といえるでしょう。
      
さらに、わたしなんかは常々
ハリウッドはホーガン作品をこそ映画化すべきだ!と思っているのですが
これまたそんな気配もないのが不思議です。
少なくともディックなんかよりよほど映画的なんですがね。
「トータル・リコール」が再映画化されるそうですが、
いいかげんもう“ディック原作のディックらしくない映画”はいらんでしょう。
      
謎解きがほとんど会議室でなされていく(笑)「星を継ぐもの」は
さすがに映画化しづらいでしょうが、他の作品、たとえば
「造物主(ライフメーカー)の掟」などは非常に向いてると思うのです。
      
“突然変異”した“自動工場”が土星の衛星タイタンで進化し
機械生命による独自の生態系を形成。
その中で最も進化したグループは文明を持つにいたり、
そのレベルは人類史における中世ヨーロッパにそっくりだった…
薄暗い氷の大地の上(でもそこには、その環境に適応した
“植物”や“獣たち”が息づく“自然”がある!〈もちろん、全部機械です〉)を
どこか中世の甲冑に似た機械たちがガシャガシャと歩き回るなんて
メチャメチャ“絵”になると思いませんか?
ちゃんとアクション場面もありますよ。
しかも、“機械生命=人類の脅威”として描くような
ありがちなストーリー展開ではありません。
むしろ怖いのは人間側の思惑。
それをなんとか食い止めようとするのが
うさんくさい心霊パワーを売り物にする詐欺師チームという設定も
ちょっとひねりが利いてます。
異世界、異様だけど愛すべきキャラクター、陰謀、アクション、
そして大団円。さらに続編もあるので当たればシリーズ化のおまけ付き!
いや〜、ヒットの要素てんこ盛りなんだけどなぁ〜。
ハリウッドのお偉いさん、どうして気付いてくれませんかね?
      
90年代以降は、度を過ぎたオプチミズムと政治思想、
果ては“トンデモ学説”に傾倒したり…と
ちょっとついて行けない感じもあったホーガンですが、
それでも初期作品の輝きが失われることはありません。
たしかに初期にも見られる楽天性は(今の目では特に)
ナイーブすぎるといわれてもしかたないでしょう
(以前提示したわたしの定義からすれば“過去の傑作”ですね)。
でも、「ホントにこんな世界になったらいいのに!」と
素直に思えた若いころの自分がいたこともまた事実。
わたしにとっては、そんなノスタルジーもちょっと込みで
かけがえのない傑作たちでありました。
      
ご冥福をお祈りします。
      
      
      
      

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