2012-05-17

Three of a Parallel Life.



「くそっ、あいつが全部やっちまった!」

若き日のジャクソン・ポロックは、
ピカソの画集を床にたたきつけ、こう叫んだそうです。

なんだかめちゃくちゃわかるなあ。
わたしも美術系学生の端くれだった30年近く前、
同じようなことを思ったモノです。

あのアメリカを代表する前衛芸術家ポロックにも、
ブレイク以前には苦悩しながら試行錯誤を繰り返す日々があったのだとか。

その頃の作品を見ても、
ピカソ風ありカンディンスキー風ありミロ風ありetc.etc.
……なんか好みもわたしと似てるし。

クロッキー帳に描きとめられたアイデアスケッチ
(という名のちょっと恥ずかしいイタズラ描き)なんて、
「オレかよ!」と心の中で思わず叫ぶシンクロ具合。
ああ、ポロックさんもこういうの描いたんだね……

もちろんポロックとわたしの間には
数万光年にも匹敵する遙かな隔たりがあるのは言わずもがな。

わたしの恥ずかしい若描きが衆人の目に曝されないのは
単にわたしが無名の一般人だからにすぎません。
一般人万歳!

結局、苦悩の“種類”は似ていても
“深さ”が違ったということでしょう。
だからピカソの画集を眺めたとき、
似たようなことを思ってもわたしはそれを
床に叩きつけるようなことはしなかった。
それどころか「やっぱピカソってスゲエわ」なんて
早々に白旗を揚げる始末。
ポロックにあったであろう「いつかは超えてやる!」という強い意志が、
当然のことながらわたしにはこれっぽっちもなかったのでした。
このへんが、一般人と偉大なアーティストを分ける
決定的な分岐点なのでしょうね。

しかしその苦悩のあまりの激しさによるものでしょう、
ポロックは若い頃からアルコール依存症に苛まれ、
精神分析の治療も受けています。

わたしだって「酒飲みまくってでろんでろんに酔っぱらったら
きっとスゴイ絵が描けるんじゃないか」なんて思ったこともありましたが。
って、そういうことじゃないか。

キャンバスの上をのしのし歩き回り、大きく刷毛を振り回して描く
アクション・ペインティング。
ためらいなど微塵も感じられない制作風景からは想像もできなかった
その境地に至るまでの(美大生にはあるある的な)悩み。
遙かな隔たりは厳然とあるとしても、でもそれが
足元の地面でつながっていたんだと、ちょっと親近感が湧いたって話です。



で、そんなわたしがふと思い出したのが
前衛芸術のロック界代表、ジェイミー・ミューア。
ガラクタのようなパーカッションの合間を歩き回り
手当たり次第に叩いたり蹴ったり吹いたりする様は
まさに音の奔流を描くアクション・ペインティング。



観る者、聴く者に鮮烈な印象を叩きつけ、
でもあっという間にシーンから消え去ったところも似ています。
ポロックはブレイクから3〜4年後に
プレッシャーから再び混迷期に入りアルコール依存も再発、
自動車事故により44歳の若さで他界してしまうのでした。

てっきり天然の人だと思い込んでたミューアさんも
ポロック同様苦悩の日々があったのでしょうか?

キング・クリムゾン脱退後は引退して仏教の修行をしたとか……
以前何かの雑誌で画家としてセカンドキャリアを積んでいるという話も……

少なくとも人生後半に関しては、
自分の属していた世界に執着しなかったことで
(傍目には)迷いのない人生を歩けているように見えます。

ポロックさんも全盛期の後は違うことをやっていたら
もしかしたら死ぬことはなかったかもしれませんね。

正直この歳になり、このまま今の仕事続けていいのか
疑問が首をもたげる今日この頃。
今後わたしも歩むならミューアさんの人生、といきたいところですが
いざそんな潔い転身ができるかどうか。

スパッと足が洗えるのも
その世界で大きな仕事をやり遂げてこそなんでしょう。
悲しいかな一般人。

たしかにこの頃のキング・クリムゾン、
ジェイミー・ミューアが起爆剤となり
ロックにおけるインプロヴィゼーションの地平を開拓。
それはとてつもない破壊力を以て
われわれにインパクトを残しました。

そしてその後も手を変え品を変え、時代が変わっても
常に新たなコンセプトを提示し続けたモンスター・バンド。
ニュー・ウェイブとの接近、エスニックなリズム、
更に時代は下りダブル・トリオおよびProjeKctという実験的編成、
そして新時代のメタル・ミュージック……

そうです。そこには第3の人生を歩む男の存在が。
今や“偉大なる詐欺師”が代名詞、ロバート・フリップ。

キース・ティペット、ジェイミー・ミューアを始め、
パオパオギターやスティック奏者、エレドラ奏者などなど、
次々と“飛び道具”をバンドに引き込み、
自らは(プレイもするけど)専ら黒幕としてバンドを操る。
さらには自身のレーベルを立ち上げ運営……

結局、こういうプロデューサー・タイプが
一番成功するってことですか。そうですか。

「世の中には2種類の人間しかいない。
自分で何かをするのがうれしい人間と、
人に何かをさせて満足する人間だ。」

これは四半世紀以上デザインの仕事をやってきたわたしが
絶対的真理として疑うことのない持論ですが、
典型的な前者であるわたし、フリップさんにはなれません。
そのへんはとっくに諦めてますけど。
それに成功と幸せは必ずしもイコールじゃないし。
ってこれこそ一般人の常套句ですね。

そしてきっと、プログレの世界でも、
世界中の多く(…はないか)の若きプレイヤーたちにとっては
こんな言葉が常套句なのに違いありません。

「くそっ、キング・クリムゾンが全部やっちまった!」





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